Solar TAO Project 始動

 Solar TAO Projectとは、チリ・アタカマ砂漠にあるチャナントール山(5,600m)に建設予定の世界最大の赤外線望遠鏡建設計画(TAOプロジェクト)と、ふもとの砂漠に20MWの大規模太陽光発電所を設置し、その天文台で使用する電力を直流高温超電導ケーブルによって送電しようという壮大なプロジェクトである(将来的には発電所を拡張し、周辺の町にも電力を供給を予定)。

 もともとTAOプロジェクトは東大吉井教授らを中心として10年来構想が進められてきたが、事業総額20億円と文科省にとっては巨大プロジェクトのため、独法化により大学予算の削減が続く昨今の状況においては、資金的に実現が厳しい状況にあった。

 それに対し、大規模太陽光発電、高温超電導送電という今後のエネルギー対策の鍵となる新技術の実証試験を組み合わせ、更にCO2等温暖化ガスの計測も行うことにより、単純に理学的な興味からだけではなく、環境エネルギー問題に対する社会的・工学的観点も取り込んだ産学連携プロジェクトとして再構成されているところに妙味がある。

 今日はその発足記念シンポジウムが開催されたのだが、TAOに対して太陽発電、高温超電導送電の組み合わせを最初に提案したのは(株)ナノオプト・エナジーの藤原社長。同氏の持論は、起業家と天文学とは密接な関係にあり、鉄鋼王カーネギーはウィルソン山天文台に、ロックフェラー財団パロマー天文台に資金援助して巨大な望遠鏡を作り、天文学の進歩に貢献した。こうして得られた近代の科学的宇宙観に基づいて、産業革命や民主主義は進展したというもの。

 Solar TAOの成果は、将来のSahara Solar Breeder※2、そしてGENESIS計画※3へと繋がることが期待されており、またもや天文学が社会変革に対する重要なマイルストーンを担うことになるのだろう。


※1 Solar TAO
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/SolarTAO/index.html

※2 Sahara Solar Breeder計画
 2003年9月のG8+5科学技術会議で日本が提唱した計画。サハラ砂漠太陽光発電所と太陽電池の工場を建設。砂漠の砂と太陽電池の電力を使用し、新たに太陽電池を生産するというもの。

 現在はいわば火力発電で太陽電池を作っているようなものであり、太陽光発電太陽電池が作れるようになれば、ようやく真の持続性社会にふさわしいエネルギー源と呼べるようになる。

※3 GENESIS計画
 元三洋電機社長の桑野氏が1989年に提唱。世界各地に太陽光発電システムを分散配置し、それらを高温超電導送電ケーブルでネットワーク化するという計画。変換効率10%の太陽電池を砂漠面積の約4%に設置すれば全世界のエネルギーをまかなうことができる計算となり、且つ昼と夜の地域、晴れと雨の地域を結ぶことにより、自然エネルギーの難点となる需給バランスの平滑化を図ることも可能となる。